
渋江抽斎
森 鴎外
岩波書店 / 200001
この本について
仕事でも日常でも、人のちょっとした態度に過敏になったり、逆に自分の振る舞いがどう見られているのか気になったりする時ってありますよね。相手の目線一つで揺れてしまう自分に、少し疲れてしまうようなあの感覚です。 『渋江抽斎』を読んでいて面白いのは、そんな揺れが昔の人にも普通にあったんだと分かるところです。例えば、足が悪い渋江を奥女中が目を見合わせて笑う場面。あれは彼の才能や教養とは関係ない、ただの生活の一部で、でも本人には刺さる。そこに「辞安は足はなくても腹が二人前あるぞ」と庇うように言う人物が出てきて、人間関係の温度が一気に立ち上がる。こういう細部が積み重なって、「人の価値は単体で決まらない」というごく当たり前の事実を、少し違う角度から実感させてくれます。 また、殊域同嗜のように、異なる環境の人同士でも同じものを好むことでつながれる感覚や、扈随というついて回る関係の微妙な距離感、櫪に伏すような心身の弱りまで、どれも今の私たちにもある揺れと地続きです。歴史小説というより、人の「どうしようもなさ」をそっと肯定してくれる記録に近い読後感があります。 他人の視線に揺れやすい人、自分の弱さをなかったことにしたくない人に、静かに効いてくる本だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの50%が集中しています。
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