
岬 (文春文庫 な 4-1)
中上 健次
文藝春秋 / 1978-12-25
この本について
ときどき、自分の家族や生まれた場所をうまく受け止められなくなることがあります。誰のせいというわけでもないのに、血のつながりや育った環境が、いまの自分を縛っているように感じてしまう瞬間です。抜け出したいのに、足元にはずっと土のにおいが残っているような、あのやり場のない感覚です。 『岬』を読むと、そのどうしようもない重さと向き合ってきた人間の呼吸が、じわっと肌に移ってきます。家族を嫌いになりたいわけじゃないのに距離を置きたくなる気持ちとか、身体の奥で反応してしまう衝動と理性のズレとか、言葉にしづらいものがごまかさずに描かれています。土地の匂いや、人の声の荒さや、夜の湿気みたいなものがそのまま胸に残るので、自分の中の混ざりものを、いったんそのまま見ていいのかもしれないと思えてきます。 とくに、家族との関係をどう扱っていいかわからなくなっている人や、育った場所に複雑な感情を抱えている人には、静かに刺さる一冊だと思います。自分のルーツを無理に肯定もしないし否定もしないまま、「こういう重たさを抱えたままでも、生きていくことはできる」という位置に連れていってくれる小説です。
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