
水上バス浅草行き
岡本真帆
この本について
仕事や人間関係がうまく回っていないわけじゃないのに、ふと胸の奥がざわつく日ってあります。合理的に考えれば「気にしなくていいこと」なのに、どうしても引っかかったまま残る。そういう小さな痛みを抱えたまま暮らしていると、自分だけ世界に置いていかれたような気にもなります。 『水上バス浅草行き』に並んでいる短歌は、そんな曖昧な感情を無理に整理しようとしません。むしろ、雲に名前をつけたり、ビールに季節を見つけたり、なくても生きていけるような瞬間にそっと灯りをつけてくれる感じがあります。たとえば「パスワードの中に犬の名を住まわせて」みたいな、誰にも説明しないまま心に住んでいるものを、そのまま肯定してくれるところがあります。あるいは「当社比で顔がいい日」に雨が降るみたいな、うまくいかない自分のタイミングさえ笑って受け止めてくれるような視点もあります。 読んでいると、失われたものを思い出すだけじゃなくて、いま手のひらに残っているものにも静かに気がつきます。誰かを強く求めたり、諦めたりしながら、それでも続いていく日々の温度がちゃんと残っている。そんな言葉に触れると、自分の中の「これは無駄じゃない」と思える部分が少しだけ息をしはじめるんですよね。 感情の整理よりも、感情の“居場所”がほしい人に刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの16%が集中しています。
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