
待つ
太宰 治
KADOKAWA / 2006
この本について
人と会うと、会話そのものより「ちゃんと振る舞えているか」が気になって、帰り道にどっと疲れることがあります。社交が苦手というより、噓をついて生きているような居心地の悪さが残る感じ。誰も悪くないのに、世界の音が急に遠のくような瞬間がある人もいると思います。 太宰治の「待つ」は、そんなモヤモヤに名前をつけてくれる短編です。人との距離感をうまく掴めず、挨拶ひとつで自分が薄っぺらく思えてしまう時、太宰はその気持ちをごまかさずに、そのままの形で書いています。望遠鏡を逆にのぞいたみたいに世界が遠くなる感覚や、「誰を待っているのかわからないまま立ち尽くす時間」を、そのままの痛みで描いているので、自分だけが変じゃなかったんだと少し呼吸がしやすくなるんです。 この本が効いてくるのは、無理に前向きになりたい時ではなく、立ち直る元気がまだ出ない時です。社会的な正解より、自分の正直さをいったん拾い上げたい時。すぐに答えを示してくれる作品ではありませんが、「待つしかない時間も、生きているうちのひとつの形」と思えるようになる。それだけで気が軽くなる場面が、きっとあります。 人間関係に疲れて、世界の音量を少し絞りたい人に刺さる一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
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