
関東大震災 (文春文庫)
吉村 昭
この本について
最近、人の集団心理に巻き込まれそうになる時があります。事実がよく見えなくなったり、誰かが言った「らしい」に気持ちを持っていかれたり。頭では距離を置きたいと思っても、災害や混乱の場面になると、自分も同じように流されてしまうんじゃないか…そんな不安がふと出てきます。 吉村昭『関東大震災』を読んでいると、そのモヤモヤが少し具体的に形を持ちます。抜粋にもあるように、根拠のない流言が一気に膨らみ、軍や官憲までもが「事実」として扱い、庶民が暴走していく。その背景には、当時の日本が朝鮮に対して抱えていた負い目や緊張感が静かに横たわっていて、そこに地震という極限状況が重なった。こういう流れを追うことで、「人はなぜこんな行動に至ってしまうのか」という問いが抽象論ではなく、具体的な場面として迫ってきます。 もう一つ、自分の中で響いたのは、当時の人々が連続する地震や火災で判断力を失っていく描写です。戸口に赤ん坊を置いて逃げたり、池に飛びこむ人が続いたり、貼紙ひとつで混乱が加速したり。これを読むと、私たちが「平常時の自分」を基準に他人を責めるのは本当に難しいのだと気づかされます。むしろ、いつ自分が同じように冷静さを失う側に回るのか、その可能性を受け入れるための材料になるというか。 歴史の大事件を知るための本というよりも、「集団の中の自分」を考えたい人に静かに効いてくる本です。
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