
悪徳の栄え 上 (河出文庫)
マルキ・ド・サド and 澁澤龍彦
河出書房新社 / 1990-10-09
この本について
最近、世の中の「正しさ」に合わせようとしすぎて、自分の本音がどこにあるのか分からなくなることがあります。誰かの機嫌を損ねないように振る舞ううちに、心の奥で渦巻いている衝動や怒りや欲望を、まるごとなかったことにしてしまう。けれど、その無理が積み重なると、ふとした瞬間に自分でも驚くような方向へ気持ちが逸れていくんですよね。 『悪徳の栄え』を読んで痛感したのは、人間の中にある“扱いづらい部分”から目をそらすほど、かえって振り回されるという現実でした。自然は冷静さよりも暴れまわる感情に味方しやすい、というくだりは妙に腹に落ちますし、魂が神経に触れてはじめて感情が生まれるという描写は、理屈では抑えられない衝動の説明として妙に現実的です。また、美徳が「本来の性質」ではなく、社会に合わせるための後付けにすぎないという視点に触れると、自分の中の矛盾が急に許されるような感覚もあります。 もちろん、この本は何かを指南してくれるタイプではありません。ただ、自分の中の黒い部分を持っていることを前提に生きる方が、ずっとまっとうなんじゃないか、そんな気づきを与えてくれます。自分の“理性”と“衝動”の境界が曖昧だと感じている人に刺さると思います。
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