
さかしま (河出文庫)
J・K・ユイスマンス and 澁澤龍彦
この本について
仕事でも日常でも、言葉にできない停滞感が長く続くことがあります。何かを変えたい気持ちはあるのに、同じ景色の中でぐるぐる考えてしまう感じです。そんなときに自分は、小難しい思想書よりも、いっそ徹底的に「異世界の感性」に触れることで軸が戻ることがあります。 『さかしま』を読んでいて思うのは、この本は教えてくれるというより、こちらの感覚のほうを勝手に刺激してくるところです。読者が保存していた言葉を見ても、剽窃や韜晦のような倫理の揺れ、糠雨や揺曳のような空気の湿度、糜爛や琺瑯のような質感表現など、意味よりも「手触り」に反応している感じが強いですよね。自分も読みながら、わかったようなわからないようなまま、感覚が少しずつズレていくのを楽しんでいました。 このズレが意外と効きます。まず、世界の見え方が一段階ずれるので、普段の判断基準からいったん離れられること。さらに、言葉そのものに感情を乗せずに眺める癖がつくので、日々のモヤモヤを即断せずに置いておく余裕ができること。そして何より、現実の疲れから距離を置きつつ、自分の好みや感性の根っこを思い出すきっかけになること。この三つは、読み終えたあとも意外と長く残ります。 「異物感のある言葉に惹かれる人」には特に刺さるはずです。作品の世界観にどっぷり浸かるというより、言葉の層をゆっくり撫でながら、自分の感覚の輪郭を確かめるような読み方ができる一冊でした。
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