
山の音 (角川文庫)
川端 康成
新潮社 / 1957-04-15
この本について
年を重ねるほど、「自分の気持ちがどこにあるのか分からない瞬間」が増える気がします。家族との距離感だったり、昔ほど覚えられなくなった名前や出来事だったり、ふとした拍子に押し寄せてくる寂しさだったり。忙しさの中で曖昧に流してしまうけれど、どこか胸の奥でざわついたまま残るあの感じです。 『山の音』を読むと、その“ざわつき”に輪郭がつくような時間がありました。たとえば、信吾が女中の名前を思い出せず、「感心した言葉」までも勘違いしていたことに気づく場面。老いの兆しに軽く冗談めかしながらも、どこか自分を確かめるようなあの感じに、自分の生活の一場面が重なる人は多いはずです。また、家族それぞれの沈黙や気まずさが電車の停車場のように点々と続いていく描写は、日常の中でどうにも動きようのない空気を抱えている人には、妙にしみると思います。 この作品は、劇的に人生を変えてくれるタイプの本ではありません。でも、見過ごしてきた感情の細部にそっと光を当ててくれる瞬間があって、それが読む人の呼吸を少しだけ整えてくれる。静かだけれど確かに効く本です。 家族の関係や、自分の“老い始め”の気配に敏感になってきた人には、特に刺さると思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第6章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの22%が集中しています。
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