
今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書100)
畑中章宏
講談社 / 2023-05-18
この本について
仕事でも日常でも、自分がどの「世間」に属しているのか分からなくなる瞬間ってありませんか。どれも自分の顔のはずなのに、場面ごとに違う振る舞いを求められて、気づけばどれが本音なのか曖昧になる。しかも、組織の内側と外側の価値観の違いに振り回されることも多い。そんなときにこの本を読んで、少し呼吸が楽になりました。 宮本常一の民俗学は、特別な思想を語るというより「人がどう生きてきたか」を、生活の手触りごと追っていく学問でした。村の風景や民具の使われ方といった細部から、人がどう共同体と距離を取り、どう外の価値を取り入れてきたかが見えてくる。閉じた共同体だけでも、公共性の空間だけでも、人は身動きが取れない。両方を行き来して生きるのが普通なんだ、と気づかされます。 また、自分の中の「分人」をどう扱うか迷う人ほど、この本はおもしろいと思います。共同体ごとに違う顔を持つのは不誠実ではなく、むしろ歴史的に当たり前のことだった。主流のど真ん中に立たず、傍流から状況を見る姿勢も、焦りや同調圧力の多い時代には心強い考え方です。 自分の居場所が一つに定まらないことを不安に感じている人に、静かに効いてくる本です。
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