
NHK「100分de名著」ブックス 石牟礼道子 苦海浄土 悲しみのなかの真実
若松 英輔
この本について
最近、人の痛みや悲しみに向き合おうとすると、どこまで踏み込んでいいのか分からず立ち止まることがあります。知ろうとしすぎれば傲慢に思えるし、知らないままでいるのも逃げているようで落ち着かない。そんな揺れの中で、この本を読むと、分かったふりをせずに「問い続ける」という姿勢そのものが大事なんだと少しだけ呼吸が整う感じがしました。 『苦海浄土』は、ただの公害の記録ではなく、言葉を奪われた人々の奥にあるものを、どうにかして受け取ろうとする営みです。読みながら手が止まる瞬間があっても、それこそが読んでいる意味なのだと著者は言います。分かったと思ったらいったんそれを疑い、また読み返す。そういう往復の中でしか届かない世界があることを、静かに教えられる一冊でした。 そして何より、「悲しい」「哀しい」だけでなく、「愛しい」「美しい」まで含んだ“かなしみ”という言葉の深さに触れると、苦難の物語なのに、世界の輝きのようなものが立ち上がってくる。その矛盾に心が動かされます。 事実を知りたいというより、人間の痛みをどう受け取ればいいのか迷う人に刺さる本だと思います。読む側の姿勢そのものを揺さぶられる作品ですが、その揺れを大事にできる人には、きっと深く残るはずです。
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