
十戒
夕木春央
講談社 / 2025-08-08
この本について
仕事でも人間関係でも、状況が重くなるほど「自分だけが何かを知ってしまった時、どう動けばいいのか」が分からなくなることがあります。下手に踏み出せば壊れるし、黙っていれば時間だけが削られていく。あの、余命をやすりで削られているような感覚です。 『十戒』を読んで感じたのは、極限状態に置かれた人間の“判断の揺れ”が、驚くほど自分の日常にもつながってくることでした。足跡を消す理由に悩む父や、犯人を知ってしまった語り手の戸惑い、貝殻で部屋の出入りを管理する異様なルール。こういう細部に振り回される登場人物を追っていると、「正しさよりも、その瞬間に選べる行動のほうが現実的なんだな」と腑に落ちてきます。 特に、相手の意図が読めないまま決断を迫られる場面は、私たちが仕事で情報不足のまま判断する瞬間とよく似ています。焦って一歩踏み出すと危ないし、かといって何もしないわけにもいかない。そんな“身動きの取れなさ”に、妙なリアリティがありました。だからこそ、事件そのものよりも、人がどう迷い、どう誤るのかを見る本として面白いと思っています。 閉塞感の中で思考が空回りしがちな人、あるいは「答えの出ない状況に耐える力」を少し鍛えたい人に、静かに刺さる一冊です。
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