
遠い山なみの光〔新版〕 (ハヤカワepi文庫)
カズオ イシグロ and 小野寺 健
この本について
最近、人に話すほどでもない後悔がふっと胸に浮かんでくることが多くて、でも言葉にするとどこか嘘っぽくなる感じがして、そのまま飲み込んでしまうことがあります。思い返したところで状況が変わるわけでもないし、かといって「なかったこと」にもできない。こういう宙ぶらりんな気持ちって、けっこうしんどいですよね。 『遠い山なみの光』を読んで感じたのは、その曖昧さごと人が生きていく姿を、イシグロは決して誇張せず静かに置いてくれるということでした。悦子が「いまさら復習しても何の役にも立たない」と言いながらも記憶に触れ続けてしまうところや、昔の出来事が思い出すたびに微妙に形を変えていく描写は、私たち自身が日々やっていることとほとんど変わりません。きれいに整理しなくても、そのまま抱えて生きていいのだと示されているようでした。 そして、戦後の価値観の揺らぎの中で、人と人がわかりあえないまま会話だけが進んでいく感じが、妙に現実に近いんです。過去の自分と今の自分の折り合いがつかなくても、時間は止まらない。その当たり前の残酷さを、イシグロは過度に dramatize せず、ただ置いていく。その距離感が、かえって救いにも思えました。 取り返しのつかない選択をめぐる後悔を、誰にも言えないまま持ち歩いている人に静かに刺さる一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの33%が集中しています。
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