
失はれる物語 (角川文庫)
乙一
KADOKAWA / 2006-06
この本について
日常の中で、自分の気持ちをうまく言葉にできない瞬間ってありませんか。腹の底では渦を巻いているのに、外に出すと急に形が崩れてしまうようなあの感じです。人との距離の取り方に迷ったり、わかってほしいのに何も伝えられなかったり。私もよくそこでつまずきます。 『失はれる物語』の抜粋を読むと、まさにその“不在の感情”みたいなものに反応して保存した方が多いのだろうなと感じました。コロニーとか敵愾心とか懊悩とか、強いはずの感情が言葉にできないまま、ただ光と音に恋焦がれるしかない――あの描写は、自分の中にあるけれど表に出せないものを代わりに掬い上げてもらったような手触りがあります。ゆびで「YES=1、NO=2」としか伝えられない不自由さも、決して異世界の話ではなく、日常のコミュニケーションの縮図のように読めます。 この本が効くのは、感情の説明がうまくできない自分を責めがちなときです。一つは、言語化できない状態そのものにも輪郭があると気づけること。もう一つは、どれだけ不完全でも、わずかな合図や感覚の共有が関係をつなぐこともあると実感できること。さらに、湿った風を腕に感じるような細部の感覚描写が、自分の中の“まだ言葉にならない領域”をそっと動かしてくれます。 「うまく伝えられない自分を抱えたまま、それでも誰かとつながりたい人」に、静かに刺さる一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの53%が集中しています。
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