
共喰い (集英社文庫)
田中慎弥
集英社 / 2013-01-18
この本について
日常の中でふと、「もしあの瞬間に戻れたら、何か変えられたんじゃないか」と考えてしまうことってありますよね。過去をどうにもできないと分かりつつ、あの時間に別の形があったかもしれない、と思い続けてしまう感じです。僕も同じで、そんな気持ちが長く尾を引くことがあります。 『共喰い』を読むと、そのモヤモヤに少しだけ輪郭が与えられます。読者の方が保存していた「三人できちんと暮らした年月がどこかにあったかのようだった」という一文は、ありえたはずの過去を探しにいくような切なさが出ていて、この作品の核心に近い部分だと思います。登場人物の名前の反復も、誰かと向き合おうとしても結局うまく噛み合わない、人間関係のざらつきを象徴しているように読めます。 この本が効いてくるのは、まず「家族や過去についての感情が整理しきれないとき」に、主人公の視点を通して自分の感覚を少しだけ客観視できること。もうひとつは、「暴力や愛情が入り混じった関係性のややこしさ」を、きれいごとにせず描いてくれるので、心の中でうまく言葉にならなかった部分に手ざわりが生まれることです。過去そのものが変わるわけではないけれど、そこへの距離が少し変わる感覚があります。 こんな人に刺さると思います。自分の中に残っている「もしあのとき」の気配を、直視しきれずにいる人。物語としては重たいですが、読後に残る静かな余白が、思っていた以上に長く心に居座ります。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの43%が集中しています。
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