
1ポンドの悲しみ (集英社文庫)
石田衣良
集英社 / 2004-03
この本について
年齢を重ねるほど、人との関係にうまく名前をつけられなくなる瞬間ってありませんか。好きとか嫌いとか、必要とか不要とか、そんな単純な言葉では片づけられない距離が増えていく。自分でも笑ってしまうくらい、扱いに迷う感情が日常にぽつんと残ることがあります。 石田衣良の『1ポンドの悲しみ』に出てくる「化粧品よりサプリに近い男」という比喩や、「期限がくるとゴミ箱に投げたり(投げられたり)」という一行に反応した人は、おそらくその曖昧さの温度をよく知っているタイプだと思います。誰かとの関係を大事に思っているのに、実際にはうまく扱えない。期待しすぎてもいけないし、かといって放っておくと消えてしまう。その微妙な距離感を、この短編集はやわらかく言語化してくれます。 登場人物たちは特別な人たちではなく、ふつうの街でふつうに迷っている大人です。だからこそ、曖昧な関係に名前をつけずに抱え続けてきた自分の癖や、いつの間にか変わってしまった優先順位に気づくきっかけをくれる。横浜なまりがふっと入る場面や、ルッコラのようなささやかなモチーフが妙に心に残るのは、きっと自分の日常にも似た“ほつれ”があるからなんでしょう。 こんな人に刺さると思います。自分でも説明しきれない感情を、そっと横に置いておきたい時期の大人。読んだあとも大きく世界が変わるわけではないけれど、つぼみのように小さく残っていた気持ちに光が当たる、そんな一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの40%が集中しています。
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