
ポニー・テールは、ふり向かない 「ポニー・テール」シリーズ (角川文庫)
喜多嶋 隆
この本について
なんとなく気持ちが置いていかれている感じが続くと、目の前の景色を眺めているはずなのに、自分の内側ばかりを見てしまうことがあります。忙しいわけでもないのに、足が前に出ない日があるというか。そんなときに、この本の「ながめて、ながめて、」という静かな反復が引っかかる人は多いんじゃないかと思います。 喜多嶋隆さんの作品は、勢いで読ませるタイプではなく、主人公のまなざしの変化をじっくり追わせるようなつくりです。景色をながめ続ける場面がそのまま心の停滞と重なりつつ、いつのまにか「ふり向かない」という選択の重さが伝わってきます。焦って答えを出すのではなく、立ち止まったままでも少しずつ気持ちが動いていく感じが、このシリーズの大事なところだと思います。 物語としての起伏は控えめですが、その分、自分の過去や人との距離感を持て余している人にはすっと入ってきます。誰かに背中を押されるよりも、落ち着いた時間にそっと寄り添われたいときに向いていますし、「動けない自分を責め続けてしまうタイプ」の人には特に刺さるはずです。 大きな解決は提示されませんが、景色をながめることに意味がある瞬間を思い出させてくれる物語です。気持ちの速度をいったん緩めたいときに手に取ると、読み終えたあともその余韻がしばらく残ります。
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