
トラウマ (岩波新書)
宮地 尚子
講談社 / 2024-08-23
この本について
人間関係の中で、相手の機嫌や期待に合わせすぎて、自分の輪郭がどんどん薄くなる感覚ってありませんか。逃げればいいと頭では分かっていても、実際には「自分が悪いのかもしれない」と思って動けなくなる。あのどうにも説明しづらい息苦しさに、名前を与えてくれたのがこの本でした。 宮地尚子さんの『トラウマ』は、暴力や支配がどんなふうに「個としての領域」を侵食するのかを、淡々としていながらも現実に即した言葉で示してくれます。たとえば、加害者による能力否定の中で自分らしさが掘り崩され、逃げる力そのものを奪われていく構造。あるいは、男性性・女性性の規範が、被害を受けたあとにどれだけ回復を妨げるかという指摘。読んでいて痛い部分もありますが、「なぜ自分はこう反応してしまうのか」が腑に落ちていく感覚がありました。 また、この本がよかったのは、心の問題だけに閉じず、身体や社会とのつながりの中でトラウマを捉え直してくれるところです。周囲が忘れていくスピードと当事者の時間の差が生む孤独や、マイノリティ性ゆえに語りづらくなる構造。そのあたりを丁寧に説明してくれるので、「感じていたしんどさは、自分だけのものじゃなかったんだ」と思える人も多いはずです。 誰かに話すのが怖いまま抱えてきた経験を、少し外側から見直したい人に刺さる本だと思います。自分の領域を取り戻すための、静かで実践的な視点がここにあります。
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