
【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)
川越 宗一
この本について
仕事や生活の拠点が変わるたびに、「自分はいまどこに立っているんだろう」とふと迷うことがあります。居場所が変わるだけで、価値観も、人との距離感も揺さぶられる。頭では割り切れるはずなのに、心がついてこないあの感じです。 『熱源』の抜粋を読むと、まさにその揺れを極限まで突きつけられます。自分の半分が故郷に残され、もう半分は異国で生きるしかない状況の中で、「身は、心は、どこに置けば良いのか」と問い続けざるをえない登場人物たち。ここに刺さる人は、おそらく自分の居場所やアイデンティティの輪郭がぼやけて見える瞬間を、日常のどこかで経験しているんだと思います。 この本が効くのは、まず「どこにいるか」よりも「どう世界を見るか」で人の強さは変わる、という視点をくれるところです。環境に振り回されているつもりでも、実は自分が世界を狭く見積もっていただけかもしれない、と静かに気づかされます。さらに、誰かと違う生き方を選ぶ痛みを、物語として追体験できるので、自分の選択にも少しだけ腹が据わるようになります。大きな答えは出ないけれど、迷ったままでも前に進んでいいと思えるのが、この作品の現実的な効き方です。 「いまの場所にしっくり来ていない気がする人」に、とくに深く刺さる本だと思います。
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