
人間そっくり(新潮文庫)
安部公房
新潮社 / 1976-05-04
この本について
日常を送っていると、自分がちゃんと「人間らしく」振る舞えているのか、不意にぐらつく瞬間があります。相手の信頼を失ったときの居心地の悪さとか、家を一歩出た途端に現実の重さに押し返される感じとか。たぶん多くの人が経験しているのに、言葉にしにくいあのモヤモヤです。 安部公房の『人間そっくり』を読んでいると、その曖昧な不安が、少し輪郭を持って立ち上がってきます。自分が人間であることは「証拠のいらない前提」だと言われる一方で、立場が崩れた瞬間には、その前提さえ疑わしくなる。あの揺らぎを文学という形で正面から扱ってくれるのは、けっこう珍しい体験でした。また、いつもの街が急に異世界の入り口みたいに思えてしまう描写があって、現実にいるはずなのにどこか宙に浮いているような、あの不一致感に「そうそう、これだよ」と思わされました。さらに、冥王星に豆腐を送るような荒唐無稽さと、人に誤解されたときの惨めさが同じ地平に置かれていて、理屈ではなく「感覚」のほうを揺さぶられる感覚があります。 この本は人生を変える、みたいな大げさな効き方ではなく、自分の中のわずかな違和感をそっと拾い上げて、別の角度から置き直してくれる一冊です。正しさよりも「この感じ、言いたかったんだよな」という納得を求めている人に刺さると思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの50%が集中しています。
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