
水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)
安部公房
新潮社 / 1973-08-01
この本について
ときどき、自分が社会のどこに立っているのか分からなくなる瞬間があります。誰かと会話するだけで摩耗したり、沈黙のほうが正直だと思えたり、気づけば「本当の自分」がどこかへ沈んでいくような感覚になることがあると思います。そういうときに安部公房の『水中都市・デンドロカカリヤ』を読むと、現実の輪郭がいつもと違う見え方をしてきます。 この本の不思議さは、奇妙な変形や現実のねじれが、実際には僕らの日常で感じているモヤモヤをそのまま外側に引きずり出したように描かれているところです。たとえば、環境に合わせて皮膚の色が変わってしまう病の話は、人に合わせすぎて自分の境界がぼやけていくあの疲れに近いし、沈黙を守る描写には「関われば相手を認めることになる」という、対人の微妙な駆け引きがそのまま刻まれています。さらに、水中に沈んだ風景を眺める場面では、うまく役割を演じられない自分への苛立ちや空虚さが、そのまま景色として立ち上がってきます。 物語として読むというより、自分の内部の歪みをいったん外側に置いて観察できる一冊です。特に「人に合わせすぎて溶けてしまいそうだ」と感じている人には、妙に刺さると思います。奇妙さに身をゆだねているうちに、自分の輪郭を少し遠くから見直せるようになる、そんな読書体験でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの31%が集中しています。
読書の順序
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