
新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)
中井英夫
講談社 / 2004-04-15
この本について
日常をこなしているつもりでも、ふと「自分の感情の底って本当はどうなってるんだろう」と不意に足を取られることがありませんか。表では平静を装っているのに、内側では澱のようなものが静かにたまっている感じ。僕もときどきその感覚に飲まれそうになって、本を手に取っては距離感をつかみ直しています。 『虚無への供物』の抜粋を見ていると、読者の方が惹かれていたのは“情緒の湿度”みたいなものだと感じました。時間が降りつもる家、浅草の夜の空気、毒のように広がる憎しみ。どれも事件のための背景ではなく、むしろ人の心の影を立ち上がらせる舞台装置になっていて、読み手の自分自身の暗がりと微妙に重なる瞬間があるんですよね。物語に入り込むというより、じわじわ沈んでいく感覚に近いかもしれません。 この本が効いてくるのは、まず「感情が澄みきらないままでも、そのまま眺める余裕が生まれる」ところ。次に、世界を構成する細部の手触りが濃いので、自分の中の曖昧な怖さや孤独に“形”が与えられていくところ。事件そのものより、人が抱えたまま処理しきれない感情のあり方に触れたい人にはかなり向いています。 こんな人に刺さると思います。暗さを避けたいわけじゃないけれど、自分の中の影とどう距離を取ればいいのか迷うことがある人。そんな気分のときに読むと、静かに効いてきます。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの65%が集中しています。
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