
ムーン・パレス(新潮文庫)
ポール・オースター、柴田元幸
新潮社 / 1997-09-26
この本について
ときどき、自分が何者なのかよく分からなくなる時期ってありますよね。頑張る気力が湧かないとか、何かしなきゃと思うのに何もできないとか。頭の中ばかり動いて、体がついてこないあの感じです。僕もそういう時期に読んだのが、ポール・オースターの「ムーン・パレス」でした。 この物語の主人公も、考えすぎて、理想ばかり膨らんで、身の回りのものを壊していくような極端な生活に落ちていきます。ただ、その暴走が「痛みとしてのリアリティ」を持って描かれていて、読んでいると妙に自分の姿と重なってしまうんです。欲しいものを手に入れるには、欲しがってはいけないというひねくれた理屈とか、上を見ることではじめて地上の自分の位置が分かるという感覚とか、普段なら突飛に見える考えが、行き詰まった心には妙に腑に落ちる瞬間があります。 僕にとってこの本が効いたのは、迷走することそのものに意味を見出してくれるところでした。人生を一度投げ出したからこそ見える景色がある、と物語自体が静かに証明してくれる。あと、言葉にする前の感情がどう失われていくかとか、十代の頃の勘違いした自信の痛さとか、ぜんぶが「分かる」としか言えないくらい正確なんですよね。 進む方向が分からなくて、自分の現在地すら曖昧だなと思っている人には、とても刺さると思います。迷ったまま読めるし、迷ったまま閉じていいタイプの小説です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの33%が集中しています。
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