
グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 (ハヤカワ文庫JA)
高野 史緒
早川書房 / 2023-07-19
この本について
ふとしたときに、「あれ、自分の記憶って本当に自分のものなんだろうか」とか、「理由は分からないけど昔から呼ばれている気がするものがある」とか、そんな説明しづらい違和感が出てくることがあります。忙しく過ごしていると流してしまうけれど、どこかでずっと残っている種類のモヤモヤです。 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』は、その“うまく言葉にできない感覚”を物語として扱ってくれる本でした。主人公が、飛行船の記憶や「トシオ」という名前のひっかかりに向き合っていく流れを追っているだけなのに、こちらまで自分の奥にしまっていた場面をそっと呼び起こされるような感覚があります。特に「褒められると申し訳なくなる」「自分の中心にあるはずのものが見えない」という描写に共感した人は、その理由を直接語らずに物語の中で照らしてくれる感じがあると思います。 もうひとつ良かったのは、テクノロジーや時代の描写が“懐かしいけれど他人事じゃない”距離感で積み重ねられているところです。Windows21の話やフロッピーの枚数で盛り上がる高校生たちのやり取りの隣に、九十年前の飛行船の事故が静かに横たわっている。その重なりが、時間の断層みたいなものをゆっくり開いてくれるんですよね。 過去の記憶や“呼ばれている感じ”に心当たりがある人には、特にじわっと響くと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの89%が集中しています。
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