
まず牛を球とします。 (河出文庫)
柞刈湯葉
河出書房新社 / 2025-09-08
この本について
ときどき、自分が何を基準に「正しい」とか「責任」とか「命」とかを判断しているのか分からなくなる瞬間があります。仕事でも日常でも、みんな当たり前のように語っているけれど、その当たり前の根っこは意外と曖昧で、人によって形がぜんぜん違う。そんなズレに気づいたときの居心地の悪さを、どう扱えばいいのかずっと迷っていました。 『まず牛を球とします。』は、そういうモヤモヤをいきなり正面から整理してくれる本ではありません。むしろ世界のほうをずらして見せてくれて、「あ、そもそも前提が揺れると価値観ってこんなに変わるのか」と気づかせてくるタイプです。たとえば、牛を動物ではなく“加工植物”にしてしまう話や、「責任」が実質的な意味よりも儀式のように扱われている社会の描写。こういう極端な設定のほうが、逆にいまの自分の立ち位置がはっきりしてくる瞬間があります。 個人的には、「人は遺伝子よりストーリーで生命を理解する」という指摘がずっと残りました。自分の価値観だって科学的な裏付けというより、いつの間にか刷り込まれた物語でできてるだけかもしれない。そう思うと、何かを断言することが少し怖くなる一方で、他人の判断にも無理に踏み込まなくてよくなる。そんなふうに気持ちが軽くなる本でした。 世界の前提のほうを疑ってみたい人、あるいは「自分の常識がどこから来たのか気になり続けてしまう人」には静かに刺さると思います。
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