
猫町
萩原 朔太郎
リットーミュージック / 2006-10
この本について
仕事でも日常でも、「自分が見ているものって本当に“現実”なのか?」みたいな妙な違和感を覚えることがあります。周りは普通にしているのに、自分だけ景色の“奥”に別のレイヤーがある気がして落ち着かない。理屈では説明できないけれど、どうしても拭えないあの感覚です。 萩原朔太郎『猫町』を読むと、その違和感が妙に肯定されます。主人公が、自分の知覚が崩れていくのを、誤魔化さずにそのまま書き留めている姿がまず印象的で、「経験した事実を書くだけだ」という潔さが不思議と心に残ります。景色の裏側にもうひとつの実在があるかもしれない、という視点は、普段の世界の見え方をほんの少しずらしてくれるし、あの「確かに何かがおかしい」と感じてしまう瞬間を、単なる不安として処理しなくていいんだと思わせてくれます。 そして何より、周囲に笑われようと、自分が“見た”という事実を手放さない語り手の姿は、自分の感覚を信用できなくなってしまう日々に、小さな支えみたいなものをくれます。理智や常識のほうが正しく見えてしまう場面でも、もう一段奥にあるかもしれないものへ目を向けてみてもいいのだ、と静かに背中を押してくれます。 自分の感覚にズレを抱えて生きている人に届く本だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの32%が集中しています。
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