
オリンポスの果実
田中 英光
KADOKAWA / 2015-11-25
この本について
人の気持ちって、はっきり言語化できないまま何年も引きずったりしますよね。好きだったのか、憧れだったのか、ただ勝手に解釈していただけなのか。思い出の中の相手が、やたら美しく見えたり、逆にどうしようもなく醜く見えたり。その揺れが自分でも説明できなくて、後になって急に胸がざわつくことがあると思います。 『オリンポスの果実』を読んでいると、そういう「気持ちの揺れの手触り」に妙に触れられます。抜粋を見ていると、読者が刺さっているのは、壮大な風景描写よりもむしろ、相手の顔の歪みや、恥じらいや、気まずさといった、ごく個人的で不格好な瞬間なんですよね。自分でも整理できない感情が、こんなふうに他者を通して浮かび上がるのか、と少し落ち着かされます。そして、相手を美化したい気持ちと、直視すると痛くなる現実のあいだで揺れてしまう自分を、作品が代わりに受け止めてくれるような感触があります。 特に、相手を追う眼差しがいつのまにか途切れていくくだりや、ただ「繫がっているものが欲しかった」という切実さは、当時の自分の未熟さごと肯定してくれるようで、読みながら少し呼吸が深くなります。過去の関係に「ちゃんとした名前」をつけられないまま大人になった人には、ゆっくり効いてきます。 こんな人に刺さると思います。昔の誰かを思い出すと、理由はないのに胸がざわつくまま放ってある人。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第5章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの18%が集中しています。
読書の順序
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