
「生命力」の行方――変わりゆく世界と分人主義
平野啓一郎
講談社 / 2014-09-30
この本について
人と会う場所によって、自分のテンションも言葉づかいも少しずつ変わる。そのたびに「どれが本当の自分なんだろう」とモヤモヤしてしまうこと、けっこうありますよね。僕も昔からこの悩みが抜けず、どこかで“ぶれない軸”を持たなきゃいけないと思い込んでいました。 平野啓一郎さんの「生命力」の行方を読んで救われたのは、その揺らぎそのものを前提にしてくれる視点でした。人は誰でも複数の顔を持ち、むしろその構成比率こそが個性なんだという話は、抽象論ではなく日常の行動レベルまでスッと落ちてくる。誰かと一緒にいる時“その人といる時の自分が好き”という感覚も、言われてみれば確かにある。無理に一つの「本当の自分」にまとめようとして苦しくなる理由が、ようやく説明された気がしました。 また、マッサージや小説の例を使いながら、合理性だけでは人は満足しないという視点も面白いです。必ずしも正しさや効率が心の充足につながらない。だからこそ芸術のように、生活とその外側をつなぐ“余白”が必要になる、という話がじんわり効いてきます。生き方というより、生活の手触りそのものが少し変わる感じに近いかもしれません。 一つの顔に自分を押し込めようとしてしんどくなっている人に、とても自然な形で視点を開いてくれる本です。
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