
ことばの歳時記 (角川ソフィア文庫)
山本 健吉
この本について
仕事の合間に季節を感じる余裕がなくなってきたな、とふと立ち止まる瞬間があります。天気や景色に気づきたいのに、数字とか予定とか、目の前のものに意識が全部持っていかれる感じです。でもそのくせ、言葉に触れるときだけは、自分の感覚を取り戻せるような気がするんですよね。 『ことばの歳時記』を読んでいて驚くのは、昔の人の「感じ方の細かさ」がそのまま言葉として残っていることでした。たとえば、音にまで霞むという形容をつけてしまう「鐘霞む」という季題の発想とか、日本人が色の微妙な違いに一つずつ名前をつけてきた話とか。あの緑、この緑を区別してきた背景に、生活と気候の積み重ねがあると知るだけで、外を歩くときの視界が少しゆっくりになる感覚がありました。 また、「やすらふ」や「名告る」みたいな、今では忘れかけた感覚の残り香のような言葉に出会うと、自分の中にも本当はもっと細かい感じ方が残っているのでは、と気づかされます。自然の現象に名前をつけ、その変化をたよりに季節を乗り越えてきたという話も、忙しい今の生活とまったく無関係じゃないなと思いました。季節の細かい折目を心の支えにするのは、なんだか人間の根っこみたいな行為ですよね。 こういう「言葉の手触り」からもう一度感覚を取り戻したい人には、かなりしみる一冊です。昔の言葉を学ぶというより、生活の速度をほんの少し落とすための本として置いておきたくなりました。
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