
アイルランド紀行 ジョイスからU2まで (中公新書)
栩木伸明
中央公論新社 / 2012-09
この本について
ときどき、自分の立っている場所の「来歴」がよく分からなくてモヤっとすることがあります。旅先でもそうだし、住んでいる街でもそうですが、目の前の景色がどんな時間の層の上に立っているのかが分かると、ちょっとだけ視界が変わるんですよね。でも、歴史書を一冊読むほどの気力はないし、観光ガイドの情報では物足りない…という日もあると思います。 この本は、まさにその間の温度で寄り添ってくれるタイプでした。聖母図像やケルトの語り部ディンシャナヒーの話のように、ほんの一点を丁寧に拾いながら、その背景にある物語まで手を引いてくれる感覚があります。ジョージアン建築がスラム化した過去や、ボイン川の戦いの余韻が街に残っているという記述も、ただの歴史知識ではなく、いま目にする風景の裏側を照らす実感として読めます。ギネスの注ぎ方ひとつで街の空気を感じ取れる、ああいう細部の描写も個人的にはけっこう効きました。 映画や詩の引用が多いのもありがたくて、「その時代に生きた人のまなざしってこんな感じか」と、視点をそっと切り替えてくれる。大きな結論に導くような本ではないけれど、土地と人の歴史が静かに積み重なっていく感じが、不思議と自分の生活にも戻ってきます。 地図の上の距離よりも、「場所に染みこんだ時間」が気になる人に刺さる一冊だと思います。
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ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの46%が集中しています。
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