
漂流(新潮文庫)
吉村昭
新潮社 / 1980-11-27
この本について
仕事でも生活でも、自分の力ではどうにもならない状況に放り込まれたとき、気持ちが急にしぼむ瞬間があります。頑張れば何とかなる、と自分を励ましてきた分だけ、どうしようもない現実にぶつかると立ち位置を見失う。そんなときに、吉村昭の『漂流』を読むと、少しだけ視点が変わります。 嵐の中で船がきしみ、飲み水が流され、祈る以外に手立てがない場面を読むと、「人ができることって意外と限られている」という当たり前が、妙に腹に落ちます。長平たちは英雄的でもないし、完璧でもありません。冷たい海水を浴びながら、ただ桶で水をかき出し、生き延びるための最低限の判断を積み重ねていくだけ。そこに妙な潔さがあって、無理に前向きにならなくていいんだな、と思わされました。 さらに、飢饉の中で凧をあげる人を見て「行事への強い執着」を感じる場面や、念仏だけを唱えて生きようとする決意には、生々しい弱さと、それでも続いていく生活の輪郭があります。状況が過酷だからこそ、人がどんなふうに自分を保とうとするのかが静かに立ち上がってくる。 自分のコントロールを越えた状況で心が揺れやすい人に、そっと効く一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの44%が集中しています。
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