
これがニーチェだ (講談社現代新書)
永井均
講談社 / 1998-05-20
この本について
ときどき、自分の判断がほんとうに自分のものなのか分からなくなることがあります。道徳とか常識とか、誰かの「こうあるべき」に押されて、気づけば自分の感覚がどこか端に追いやられている感じです。正しさを語る言葉の前で、なぜかこちらだけが縮こまってしまう、あの独特の息苦しさです。 『これがニーチェだ』が効いてくるのは、まさにその圧力に疲れたときでした。ニーチェは道徳の裏側にある力や欲望をえぐり出してしまうので、きれいごとで自分をごまかす余地がなくなります。たとえば「同情」というやさしげな態度に潜む暴力性を突きつけられると、他人への気遣いだと思っていた自分の振る舞いにも別の影が見えてきますし、「なぜ人を殺してはいけないのか」のような、誰も正面から触れようとしない問いをあえて丁寧に扱うことで、正しさの土台そのものが揺すぶられます。怖いところもありますが、そのぶん、自分が本当に拠りどころにしていたものがどこにあるのかが、少しだけ見えてきます。 世の中に役立つ答えをくれる本ではありません。でも、自分の生を肯定する感覚がどこから生まれるのかを問い直したいとき、この本は静かに火をつけてくれる気がします。表向きの倫理より、自分の内側でざらついている感覚を大事にしたい人に刺さる一冊です。
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