
ザ・万字固め (文春文庫)
万城目 学
ミシマ社 / 20250117
この本について
最近、自分には「生まれつきの才能」がないんじゃないか、と静かに焦ってしまうことがあります。頑張っても届かない人がいる感じとか、ひとりで仕事を抱えているような孤独とか、誰かの“本気”を見せつけられたときの惨めさとか。そういうモヤモヤを言えずに飲み込んでしまう日がある人には、『ザ・万字固め』のゆるくて正直な体温がけっこう沁みます。 万城目さん自身が、二十代の「生得」への劣等感や、趣味にのめり込みすぎて家族に呆れられる瞬間、書けないときのしょんぼり感までそのまま差し出してくれる。大げさな成功論じゃなくて、「そうそう、こういう小さな情けなさ、あるよな」と思える情景が続くので、自分の弱さを無理に隠さなくていい気持ちになります。ひょうたんに人生を捧げすぎて“ひょうたん未亡人”と妻に言われるくだりなんて、笑えるのに刺さる。人の本気って、こういう方向にも転がるのか、と肩の力が抜けます。 そして何より、言葉をめぐる細やかな驚きが散りばめられていて、知らない語に出会うたび、少しだけ世界が広がる感じがします。東アジアに存在しない海の色をどう表現できないかに悩む場面も、その不器用さごと愛おしい。 「才能がない日の自分を、ちょっとだけ肯定したい人」に向いています。読んでいるあいだだけでも、焦りや劣等感を押しのけずに持ったままでよくなる、そんな本です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの33%が集中しています。
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