
幻夏 (角川文庫)
太田 愛
KADOKAWA / 2017-08-25
この本について
仕事でも日常でも、「どうしようもない理不尽にぶつかったとき、どこまで踏ん張ればいいのか」が分からなくなる瞬間があります。努力すれば報われると言い聞かせても、現実はそんなにきれいじゃないし、何かを選ぶたびに別の何かを失っている気がして、正解が見えなくなることがあります。 『幻夏』を読んでいて刺さるのは、そんな“割り切れなさ”に真正面から向き合っているところでした。ヌーが川を渡る話や、工場の歩留まりの比喩は、世界がそもそも不均衡にできているという残酷さを淡々と示しつつ、誰かの涙や犠牲の上で成り立つ現実から目を逸らさない姿勢を教えてくれます。また、録音機をあえてオフにする鑓水のように、人が本音をこぼす瞬間は力技ではなく、沈黙や間の中にあるんだと気づかされます。過去の「もし」は起こらなかったことだ、という一文も、自分を責め続ける癖をそっと止めてくれる感じがありました。 派手な救いがあるわけではないのに、読み終えたあと、自分の中の混乱が少し整理されている。できないものはできない、と認めた上でどう動くかを考えられるようになる。本当に届いてほしいのは、「正義と現実の折り合い方に迷っている人」だと思います。 物語としての緊張感はもちろんありますが、それ以上に、世界の不均衡をどう受け止めるかという静かな問いが、しばらく胸に残る一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの45%が集中しています。
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