
ヒト夜の永い夢 (ハヤカワ文庫JA)
柴田 勝家
この本について
仕事でも人間関係でも、自分の考えが議論に押しつぶされたり、そもそも言葉の通じない力にねじ伏せられる感覚ってありますよね。正しさを積み上げても、世界のほうが平然と理不尽な方向へ動いていく。その温度差に疲れることが、僕はよくあります。 『ヒト夜の永い夢』の抜粋を読むと、読者が惹かれているのは「理屈で説明できない世界の歪みとの付き合い方」や、「人間の感情や倫理が入り込めない領域を前にしたときの無力さ」に触れている部分なんじゃないかと思います。この小説は、それを否定したり乗り越えろとは言わず、むしろ“そんな世界でも思考を続けるしかない人間”を淡々と描いているのが救いなんです。思想が議論に負け、議論が暴力に負ける構造を見せながら、それでも考えようとする存在の滑稽さと誠実さが混ざっていて、自分のモヤモヤを外側から見つめ直すような感覚になります。 もうひとつ効いてくるのは、多世界の描写の使い方です。夢の中で死者に会うのは、向こう側では彼らが生きているだけかもしれない、という視点に触れると、「自分が見ている現実の輪郭なんて案外あやふやなのかも」と思えてくる。正しさの勝敗ばかり気にしていた思考が、少し肩の力を抜かれるような感じがあります。何かを“無粋”と言い切る台詞も含めて、世界の捉え方そのものをずらしてくれる物語です。 理屈で整理しきれない現実に疲れつつ、それでも考えることを手放せない人に刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの33%が集中しています。
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