
消滅世界 (河出文庫)
村田沙耶香
河出書房新社 / 2015-12-16
この本について
恋愛とか家族とか、「正しさ」で語られがちなものほどうまく距離がとれなくて、気づいたら自分がどの基準に合わせて生きているのか分からなくなることがあります。昔の価値観に合わせているのか、今の社会に従っているのか、それとも自分の感覚なのか。その境界がぼやけてくる瞬間って、わりと日常的にあると思うんです。 『消滅世界』は、その曖昧さをごまかさないんですよね。恋愛が宗教みたいに機能してしまう瞬間や、「正常」の基準そのものが揺らぐ感じが、物語の中では極端な世界設定として描かれる。でも、その極端さが逆に、普段あえて直視しない“自分の思考のクセ”を浮かび上がらせてくれる。たとえば、家族を選ぶ理由の変化を読んでいると、自分がいま信じている“当たり前”の根っこが意外と脆いことに気づかされます。 もう一つ、この本が効くのは「自分の正常さを疑う怖さ」に触れられるところ。誰だって周りと違う行動をすると、不安になったり、正しさを求めてしまったりする。でも作中の“適した狂い方で生きる”という感覚に触れると、正しさに寄せて自分を削るより、今の世界でどう振る舞えば楽に呼吸できるかを探すほうが健全なんじゃないかと思えてくるんです。 自分の価値観が揺れ始めたときに、その揺れをごまかさずに眺めたい人に刺さる一冊だと思います。
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