
密やかな結晶 新装版 (講談社文庫)
小川洋子
講談社 / 2020-12-15
この本について
最近、気づけば気持ちの輪郭がぼやけているな…と思うことが増えました。何が好きで、何を手放してしまったのか、自分の中の順番すら曖昧になっていく感じ。忙しさのせいとも違う、もっと静かなところで起きている揺らぎです。そんなときに『密やかな結晶』を読み返すと、失われていくものを前にしたときの、人の心の微妙な動きがやけにリアルに響いてきました。 この小説が効くのは、世界が薄くなる感覚をただ不安として処理せず、「そういう瞬間も生き物として自然に起きるんだ」と受け止められるところです。例えば、物語を書き綴る左手や涙のように、身体の一部が順番に消えていく描写は、感情の行き場をなくしたときの自分をそっと代弁してくれますし、空気の目が粗くなるにつれて心も薄まる、という台詞は、気持ちの鈍さを責めずに眺める余裕をくれる。「ショートケーキと眠りが入れ替わる」という不思議な感覚も、現実と内側の境界がふっと曖昧になる瞬間って、誰にでもあるよなと妙に納得させられます。 派手な救いがあるわけではないけれど、曖昧さと共存するための静かな視点をそっと置いていってくれる本です。世界の密度が変わってしまったように感じるとき、それでも日々を続けていくための呼吸の仕方を探している人に刺さると思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの40%が集中しています。
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