
歌われなかった海賊へ
逢坂 冬馬
早川書房 / 2023-10-18
この本について
最近、人と関わるたびに「分かったつもり」になってないか…と自分でも嫌になることがあります。相手の言葉を一部だけ拾って勝手に像をつくったり、逆にこちらが矛盾ごと丸ごと受け止められずに立ち尽くしたり。日常のどこにでもあることなのに、胸の奥にひっかかったまま放置してしまう悩みでもあります。 『歌われなかった海賊へ』を読んで一番揺さぶられたのは、その“分かったつもり”の暴力性を、物語の中で徹底的に描いているところでした。人を分類して安心しようとする仕組みが、どれほど自然な顔をして日常に入り込むのか。寄り添おうとしたはずの理解が、当事者にはどれほど気味悪く感じられるものなのか。ここを真正面から描かれると、もう自分も他人事ではいられません。 同時に、ヴェルナーがエルフリーデに惹かれた「分からないままにしておく」という距離感も、この本の大事な視点でした。理解しきれないことを前提に、それでも一緒にいることができる。その感覚は、他人と関わるときの力の抜き方を少し変えてくれます。善良さや反骨心が特別なヒーローではなく、“普通の人の普通の選択”として描かれるところも救いでした。 「人を理解するって、そもそもどういうことなんだろう」と立ち止まったことがある人には、とくに刺さると思います。
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