
笹の舟で海をわたる
角田 光代
新潮社 / 2017-06
この本について
自分の人生なのに、いつのまにか「決められる側」に回っていたり、気づけば周りの期待や空気に合わせて生きていたり。じゃあいざ自分で選べと言われても、途端に手が止まる。そんなモヤモヤを抱えたまま大人になってしまった人、けっこう多いんじゃないでしょうか。 角田光代さんの『笹の舟で海をわたる』を読んでいて、保存された抜粋の多くがまさにその感覚とつながっているように見えました。何ものにもなれない自分への不安や、他人の決定に乗ってきたからこその軽さと空虚さ、人の弱さや残酷さに気づいてしまう瞬間。そのどれもが、読者の胸の中にある「言葉にならない違和感」と響き合っているのだと思います。 この物語が効くのは、登場人物が特別だからではなく、むしろ平凡で、みっともなく迷いながら生きているからです。たとえば、決定権を持たないまま育った左織が、静かな日常の中で軽やかさと虚無の両方に気づく場面や、人は追い詰められたときに本性が出るという会話に揺れる場面。そこに、自分もこうして揺れながら生きてきたよな、と重ねてしまう。劇的な成長物語ではないけれど、目の前の生活のなかで「こういう揺れ方でいいのかもしれない」と思わせてくれます。 大きな答えを求めている人には物足りないかもしれません。でも、何者にもなれないまま日々を続けている感覚を抱えている人には、静かに沁みてくる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの19%が集中しています。
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