
鹿の王【全4冊 合本版】 (角川文庫)
上橋 菜穂子
KADOKAWA
この本について
最近、誰かに役立つことをしているはずなのに、自分の中がすり減っていくような感覚が続いていました。与えることと奪われることの境界が曖昧になって、結局どこに立てばいいのか分からなくなるあの感じです。そんなときに『鹿の王』を読んで、少し視点が整った経験があります。 この物語には「食う側が強い」という単純な力の図式を揺らす場面がいくつも出てきます。食われる側にも痕跡が残り、生き物同士がつながっていくという捉え方は、負けても消えないものがある、という柔らかい励ましに近いものでした。また、オタワル人の「他者を生かすことで自分も生きる」という考え方は、与えることが自己犠牲になるのではなく、循環として回っていくという感覚を与えてくれます。きれいごとではなく、したたかに生き延びてきた人々の言葉だからこそ、妙に腑に落ちました。 さらに、命のやり取りや危機の場面で描かれるキャラクターの決断力は、「いまの自分なら何を選ぶだろう」という静かな問いを返してきます。誰かを守る、誰かに託す、そのどれもが完璧ではないけれど確かに前へ進んでいく。読んでいると、自分の迷いがまるごと否定されず受け止められていく感じがしました。 こんな人に刺さると思います。勝ち負けでは割り切れない世界で、それでも折れずに生きたい人。物語としての面白さはもちろんですが、自分の輪郭が少し整うような読後感がある一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの50%が集中しています。
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