
献灯使 (講談社文庫)
多和田葉子
この本について
人と関わるだけで体力を消耗したり、自分でもよく分からない不安に足を取られたり、正しさの基準に合わせようとして息が詰まったり。日常のどこにも“決定的な答え”がないまま進む感じって、けっこうしんどいですよね。最近、そういう曖昧さの中でどう立っていけばいいのか分からなくなることが増えて、この『献灯使』を読み返しました。 この物語は、何かを教えてくれるタイプの本ではないのに、読む側の視点がふっとずれる瞬間があるんです。たとえば、無名が誰にも気づかれない場所で少しずつ力を育てていく描写を読むと、「外から見える成長だけがすべてじゃないよな」と静かに思い出させてくれたり。あるいは、言葉そのものが動物のように息づいて見える場面に触れると、自分の中の感覚がまだ死んでいないことに気づけたりします。正しいか間違っているかで測れない世界を、そのままの複雑さで受け取っていいと思わせてくれるんですよね。 もう一つ好きなのは、人が抱えている“個人的な燃やせるゴミと燃やせないゴミ”があるという感覚です。理屈では割り切れない重さが確かにあって、それを持ったままでも生きていい、とそっと肯定されているように思えます。 物語としての強さもあるけれど、自分の中の静かな部分を確認したい人に刺さる作品です。物分かりのよさより、迷いを抱えたまま立ち止まれる人にこそ響くと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの29%が集中しています。
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