
母性のディストピア Ⅰ接触篇 (ハヤカワ文庫JA)
宇野 常寛
この本について
最近、現実をどう捉えたらいいのか分からない感覚が、前より強くなっている人は多いと思います。社会の議論を聞いても、どれもどこか演じられている感じがして、そこに自分の足場を置けないまま日常だけが過ぎていく。僕自身、政治や文化の話題を追っていても「本当に語るべき現実って、どこにあるんだろう」と立ち止まることが増えました。 『母性のディストピアⅠ』が面白いのは、そのモヤモヤに対して「現実そのものがそもそも虚構の上に立ってきた」という視点を差し出してくれるところです。戦後日本の保守とリベラルが実は同じ成熟観に乗っていたという指摘や、政治と文学、公と私が“つながっているふりをすることでしか維持できなかった社会”という見立てを読むと、いま感じている歪さの根っこが少し輪郭を持ちはじめる。さらにアニメーションという純度の高い虚構にこそ、時代の本質が露出してきたという話は、エンタメの見方すらひっくり返される感覚があります。 この本は何かを断言して背中を押すタイプではなく、むしろ「いま語られている現実は、ほんとうに現実なのか」という足元の揺らぎをそのまま扱ってくれるところに救いがある気がします。虚構と現実の境目が曖昧になった今の空気にうまく言葉を当てたい人、社会批評とサブカルの接点でずっと立ち止まってきた人には刺さると思います。
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