
鹿の王 水底の橋 (角川文庫)
上橋 菜穂子
KADOKAWA / 2020-06-12
この本について
ときどき、自分ではどうにもできないものを前にして、無力さだけが胸に残ることがあります。仕事でも人間関係でも、頑張っているつもりなのに状況は変わらないし、「このまま見ているしかないのか」と立ち尽くすような感覚になる。誰かへの気持ちにしても、理屈じゃ割り切れないまま抱えている方が楽なんじゃないか、と自分で蓋をしてしまうこともあります。 『鹿の王 水底の橋』の抜粋を読んでいると、まさにその「どうにもならなさ」に寄り添ってくれる瞬間が多いんですよね。病が形を変えて迫ってくる前で、ただ見守るしかない虚しさ。誰かを想いながらも、それを伝えれば壊れてしまう気がして、黙るしかない苦しさ。こういう感情って、現実では説明するほどのことじゃないのに、じわじわ心の奥に残ったりします。本作はそれを誇張せず、淡々と描くからこそ、自分の中の言葉にならない部分をそっと照らしてくれる感じがあります。 さらに、登場人物たちが「迷いを抱えたまま、それでも選ぶ」姿が印象的で、完璧に割り切れなくても前に進めるんだな、と少しだけ呼吸が楽になるんです。恋と呼ぶには不器用な情の揺れや、他者に託そうとする微かな希望。そのどれもが、正しい形を求めなくてもいいんだと思わせてくれます。 迷いを抱えたまま生きている自覚がある人ほど、静かに染みる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第5章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの40%が集中しています。
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