
螢・納屋を焼く・その他の短編(新潮文庫)
村上春樹
新潮社 / 1987-09-30
この本について
大人になったつもりでも、ふと「年齢に気持ちが追いついていないな」と感じることがあります。人との距離感もうまく掴めなくて、求められているのは自分じゃない気がして、でも理由ははっきり言語化できない。そんなときに、この短編集の抜粋が多く保存されているのを見て、「ああ、みんな同じところで立ち止まるんだな」と思いました。 村上春樹の初期作って、人生を変えるような派手なメッセージはない代わりに、言葉にできない感情の“形”だけをそっと置いてくれる感じがあります。たとえば、十八と十九のあいだを行き来しているような感覚。自分だけが取り残されているような焦り。相手を抱きしめているのに、自分が求められていないと気づくあの静かな痛み。そういう、一人で抱え込んでいた揺れが文章として目の前に現れるので、自分の中で散らばっていた気持ちが少し整理されていきます。 そして、螢を待ち続ける場面のように、答えを急がず、ただそこにある時間を肯定してくれるところも大きいです。生と死を境目で分けず、一連の流れとして描く視点は、喪失を「乗り越える」じゃなく「持ち歩く」ことを許してくれる感じがしました。無理に前向きにならなくてもいいと思えるのは、この本の静かな効き目です。 自分の感情に名前をつけられないまま二十代に入っていった人には、特に刺さると思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの38%が集中しています。
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