
夏蜜柑とソクラテス
新井 紀子
草思社 / 2025-09
この本について
日々、自分の選択が正しかったのかどうか、ふと立ち止まってしまう瞬間ってありませんか。親の期待や世間の「こうあるべき」に引っ張られつつも、自分の足で立ちたい気持ちもあって、その狭間で落ち着かなかったりします。私も同じで、だからこそ『夏蜜柑とソクラテス』のあちこちに、自分の感情の断片が貼りつくように残りました。 この本は、劇的な成功談ではなく、迷いながら進む一人の人の軌跡が淡々と書かれています。でも、その「淡々さ」が不思議と効いてきます。たとえば、親の反対を押し切って挑戦したはずなのに途中で折れてしまった自分をどう扱えばいいのかとか、社会の中で自分だけうまくはまらない感覚をどう受け止めたらいいのかとか。著者の語りは慰めるでもなく、励ましすぎるでもなく、ただ「こういうふうに迷いながら生きるのも普通なんだよ」と寄り添ってくる感じがあります。 特に、誰かに褒められた小さな出来事が人生の方向を変えたり、チョコレートパフェ一つに積み重なった年月が滲んでいたり、そういう“普通の人生のほころび”みたいな部分が丁寧に拾われているのが印象的でした。自分の歩みを急に肯定できるわけじゃないけれど、「まあ、こんな形でもいいのかも」と思える余白が生まれます。 自分のやりたいことを言葉にするのが苦手な人や、寄り道ばかりの人生にうっすら後ろめたさを持っている人には、とくに静かに刺さる一冊だと思います。
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